以前、接客のお仕事(パート)をしていたとき、年下の先輩社員さんがいた。これからAさんとする。
Aさんは高校を卒業してすぐに就職したということで、お仕事の相談など通してして仲良くなっていった。
お店には色々なお客さんが来る。
大抵の人はいたって普通な、問題のないお客さんだけど、たまに変わったお客さんが来る。
あるとき、Aさんからこんな話を聞いた。
とある日、Aさんがお店にいたとき、お客さんが宗教の勧誘に来た。
「あなた、人生に不満や不安ははない? 今度、講演会があるのだけど、お話しを聞くだけでもいいからいらっしゃらない? 幸せを分けてもらえるわよ」
といった内容で、最後に
「あなた、今幸せ?」
と聞かれたそう。
そして彼女は答えた。
「はい。今幸せなので必要ありません」
勧誘に来たお客さんは、一瞬固まって、「そう…」と言って帰っていったそうだ。
私が一番おどろいたのは、「幸せです」という答えが、勧誘を撃退するための言葉ではなく、実際に本人がそう思っていることだった。
Aさんは、ご家庭の事情で進学を諦めて就職したそうなので、(勝手な思い込みだけど)今の状況に何かしらの不満を持っているのではないかなと思っていた。だけど、違った。
色々あるけど、家族とは仲良しだし、仕事もこなせるようになってきたし、気の置けない親友もいるし、十分幸せですよね?そんなに不幸そうに見えたのかな。失礼ですよねー。
そういって彼女は笑っていた。
すごいな、と思った。改めて、自分が幸せかどうかは自分で決めるんだなと思った。そして、彼女と仕事ができて良かったなと思った。
私は今まで、自分に足りないことばかり考えてた。どうして他の人と同じようにできないのだろうか。もっと性格が明るければ。もっと顔がよかったら。もっと、もっと…
変われないのは努力が足りないからだ。頑張れない自分はダメなやつなんだ。私は幸せじゃない。幸せと思ってはいけない。
ずっと、そう思っていた。(たぶん、無意識に)
でも、違うんだな。Aさんだって、持っていないことはたくさんある。けど持っていないことよりも、持っていることにきちんと目を向けて、私は幸せだ、と見ず知らずの人に言うことができる。素敵だな。私もそうなりたいと思った。
世の中には、幸せになるための本がたくさん販売してあるし、ネットでちょっと検索すれば記事もいっぱいでてくる。そういった、顔も知らない人たちの書いた文字よりも、生の声を聞いたほうが100倍くらい心を揺さぶられた。
今の私は、まだ自信を持って「幸せです」と言い切ることはできないし、不安になる日もたくさんある。いつかAさんみたいに笑顔で幸せと言えるように、日々を暮らしていきたい。