追う人
「君を愛している!こんなに君を愛しているのはこの世で自分だけだ!自分と付き合ってくれ!」
逃げる人
「そうですか。その気持ちは嬉しいけど、私はあなたのことを知りません。」
追う人
「君は知らないかもしれないが、自分はずっと君を見てきた。君のことならなんでも知っている。」
逃げる人
「なんでも?」
追う人
「なんでも。君に結婚を誓った恋人がいることも知っている。しかし奴は駄目だ。奴の愛は本物ではない。」
逃げる人
「本物の愛でないというのは、何を根拠に?」
追う人
「奴は君を尊重しない。君の意見を、気持ちを大切にしない。」
逃げる人
「…あなたは私を愛していると言いました。あなたの本物の愛とは、つまりどういうこと?」
追う人
「自分はあなたを尊重する。あなたの望みを叶える。あなたの行きたいところへあなたを連れて行く。すべてあなたが決めていいんだ。自分はそれに従う。」
逃げる人
「私の望むことならなんでもしてくれるんですね。」
追う人
「そのとおり。あなたが望むなら、この命も差し出す。」
逃げる人
「では、私の望みを言いましょう。私は、今の恋人と結婚したいのです。だから、あなたにはそれを祝福して欲しいのです。」
追う人
「それは駄目だ!奴と結婚しても幸せにはなれない!なぜそれがわからない?」
逃げる人
「例え幸せになれなかったとしても、私が望んでいるのですよ。尊重してくれないのですか?」
追う人
「必ず不幸になる。それを分かっていてその道を歩むことを黙って見ていろと?それはできない。間違った道を進もうとしているあなたを止めようとするのは、愛しているからだ。」
逃げる人
「私の望むことならなんでもしてくれるんですよね?」
追う人
「何事にも例外はある。あなたは自分と付き合うべきだ。そうすればなんでも望みを叶えてあげる。」
逃げる人
「あなたと付き合った時点で私の望みは果たされないことになります。あなたは私のことを尊重してないことになりますね。」
「あなたは私を愛してはいないのです。」
追う人
「…一時的には辛い思いをするかもしれない。しかし、その後必ず幸せにするから!」
逃げる人
「いいえ、それは不可能です。」
追う人
「なぜそう言い切れる?試しに自分と付き合ってみたらいいじゃないか。そうすれば、自分がどれだけあなたを大切にするか分かるだろう。」
逃げる人
「試しにあなたと付き合ったとしても、私はその過程を歩むのが嫌なのです。好きになって、少し嫌なところがみえて、そこを折り合いをつけて受け入れて。」
「私は今の恋人とこういった過程を歩んできました。全てが順調とは言えません。ですが、お互いにやっと落ち着いたのです。」
「また、新しい人と関係性を作るのは非常に骨が折れます。ましてや、私はあなたがどのような人か知らない。0からのスタートはもう嫌なのです。」
「だからあなたに望むのは私たちをそっとしておいて欲しい、ということです。」
追う人
「…どうして。」
逃げる人
「私の望みを叶えてください。私を愛しているなら。この場を離れ、私のことを忘れてください。そして、その愛をほかの誰かに捧げてください。」
「そうすれば、私はあなたを美しい思い出にできるしょう。かつて、私のことをそれほど想ってくれた人がいた、と。」
「私はあなたの愛を信じられるでしょう。」
追う人
「…後悔するぞ。あなたが自分を受け入れないのなら、死んでしまうかもしれない。いいのか?」
逃げる人
「つまり、私に命を捧げるということですね。それもまた、思い出になるでしょう。ただ、辛い思い出になるでしょうから、忘れる努力をします。」
追う人
「……。」
逃げる人
「それではさようなら。このあと約束があるので。」
・・・・・・
恋人
「やあ。遅かったみたいだね。」
逃げる人
「ごめんなさいね。ちょっと。」
恋人
「食事にしようか。何が食べたい?」
逃げる人
「さっぱりしたものが食べたいです。あとはお任せしても?」
恋人
「そうだね。行ってみたいところがあるんだ。そこにしようか。」
逃げる人
「いつもありがとう。助かります。」